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2024 / 03
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九州を襲った大型の台風14号は、数名の死者を出した。
「天災はいつ起こるかわからないね。」
昼の休憩時間、小さなブラウン管に映った台風ニュースを
何人かの職員で見ていたとき、所長は言った。

それまでの午前中は、職員室を仕切った物置で、
謹慎処分。
すなわち、誕生カード作り。
数えなおしてみると108枚だった。
きっと今月中には仕上げられるだろう。

朝礼が終わると、先週午睡に付き添ったRくんと廊下で会った。
わたしに寄り添い並列に抱き合ってこう言ってくれた。
「ねえ、今日はぼくの先生になってよ。昨日はどこにいたの?」
「担任のY先生に聞いてみて。それに、Rくんの先生はT先生でしょ。」
「ぼくね、朝アヒルさんに葡萄あげたの。ほら」
Rくんは砂場の上棚の葡萄の一粒をつまんで、アヒルのイブキに
投げた。
「T先生はどこかな。Rくんだけお外に出てたら心配してるよ」
T先生にRくんを送り届けた。

用務員のKさんの助っ人で、台風に備えて高梯子にまたがり、
保育所じゅうの窓際の簾を外した。
「Kさん、このお仕事どれくらい続けているんですか?」
「10年。身体がしんどいから何度かやめようと思ったけどね。
 自分のペースでできるのがいいから。」
「わたしも9月で、この仕事もうやめてしまうかもしれません。
いくら好きでも、不適任だったらできないんだもの。
結婚だってそうでしょ?ただ好きっていうだけじゃ、
相性悪かったら続かないんじゃない?」
「まあ・・・そうかな。」

主任の指示を受けて作業を中断して保育室に入る。
気の合わないと感じるその場限りの
保育者同士の連携は、どうしても無言になってしまう。
しかも昨日の今日なら尚のこと。

子どもと素直にかかわりたいという気持ちを抑えて
子どもたちがわたしに話しかけてきてくれても
そこに夢中になれなくて、
後片付けおばさんに逃げ込んでしまう。

台風前触れのせいか、プール遊びもなくなってしまい、
子どもたちはいささか運動不足で、3時まで午睡できなかった
子が何人もいた。
自閉のJくんにとっては毎度のことで
「ビデオ1」「ヤ~レンソ~ラン・・・」と
好きな歌やことばが口をついて次々と出てくる。
わたしは、彼の口を時々押さえてマッサージやら、
トントンして眠りに誘ってみたが、2時半で断念した。

午睡から目覚めた子どもたちをそれぞれの
部屋に送り出すと、「謹慎の間」で黙々と
カード作りを再開した。

子どもの笑い声が聞こえて来る傍で、
かかわることを許されない
まるで囚人のような気分になってくる。

ふと、頭のなかを「♪夢をあきらめないで」が過ぎった。
それも7年前、ある療育施設を辞職した
最後の日に、同僚だった在日2世のKちゃんが、
「ゆきんこさんのテーマソングで送り出してあげる。」
とフォークギターを奏でながらわたしのために
歌ってくれた曲だった。

5時15分
保育所を出て、500mほど自転車を走らせ
生まれたK病院を横切る。
「こんどは、どこへ行くんだろう。
自分らしく生きられる場所に辿りつけるんだろうか。
夢をあきらめないで・・・」

本当は、こんな優雅な一日を過ごしている保育士なんて
日本のどこにもいないんだから、ある意味贅沢だってこともわかっているんだけど。






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ゆきんこ

  • Author:ゆきんこ
  • 2005年8月23日にデビューして、ブログ歴17年目になりました。
    開設当初、障碍児加配保育士を経て、紆余曲折の3年間の夜間大学院の日々を綴ってきました。
    修了後も、失業と再就職を繰り返し、どうにかケセラセラでやってきました。
    出会いと別れの中で次第に専門分野への執着を捨て、遠ざかる日々です。

    独身時代の趣味は、旅行、水彩画、ハイキング、心理学系の読書、リコーダー演奏などでしたが、兼業主婦になってからは家事にまい進、心身とともに衰退しています。
    かなり前に流行った「どうぶつ占い」では「人気者のゾウ」ってことになってます。