日常の当たり前の何気ないことの中に 「あっ」というささやかな発見を一緒に 味わってくれませんか? でも、もしかすると、見過ごしている当たり前でない大発見かもしれません。
K・Dくんの展覧会
2006年05月20日 (土) | 編集 |
今週も月から木まで、毎日夜間の学校へ通い、帰宅は午後11時30分。
忙しいけど、去年の保育畑での忙しさとは違って、スケジュール通りに
行動規制されているのは、何かに追い立てられているようだ。
布団に横たわっても、スッキリ入眠できずに、「浅い眠り」のまま
夜が明けてしまうことが多かった。

月曜日のF先生のゼミでは、M3年のKさんのデータをみんなで
(といっても3名)解析してみた。
高校時代、典型的な文系コースだったので、統計の勉強など基礎の基礎から全くしていない。
ゼミの小部屋に入る前に図書室で「SPSSでやさしく学ぶ統計解析」(室
敦子+石村貞夫著 東京図書1999)を借りたけど、ちっともわかりません。
Kさんのデータをみてもやっぱりわからない。

研究論文の場合、調査でも、実践でも何らかの数字に置き換えて、
その事前、事後に有意差(誰がやってもクリアに違いが見える)が
出ないことには、信頼性に乏しくなってきて、その後の考察が難しくなる。
起承転結がはっきりしないまま、曖昧模糊とした結論しか出ない論文も
ごまんとあるわけです。

木曜日にも本所属のY先生のゼミがあり、
「ゆきんこさんもそろそろ準備を始めよう。」
と言われてしまった。
う~~ん、、、どうしよう。。。
6月26日の発表までに、大概をまとめて文章化しないといけない。

今週は雨がよく降って、金曜日の午後は土砂降りだった。
沖縄と一緒にもう入梅したのかな?
家の軒先には、薔薇の花があちこちで美しく咲き、
水を張った田んぼには、蛙の声もこだまし始めた。

「ゆきんこちゃん、この仕事はケータイ必需品だよ。」
「そうですね。再就職したら買うつもりではいたんです。
電話が好きじゃないし、あまり必要性を感じてなくて
友人に催促されてもずっと買わなかったんですが。」
「じゃあ、私と一緒に見に行こう。」

先輩たちは、「相手の気持ちが変わらないうちに」
サササと事を運んでいくのが上手い。
いつの間にかK所長の車で同行の途中、土砂降りの中
着いたところはケータイ電話ショップ

松雪恭子によく似た長身にロングのカーリーヘアーが印象的な
Sさんの手ほどきで、申込書にサインした。
電話番号もその場で決めて、オレンジの箱を受け取った。

「おかえり~。ケータイ買った?どんなの?」
「番号教えてよ。」
持ち主そっちのけで2~3名の同僚が、勝手にいじくって
「わたしのアドレス一番に入れちゃった~。」
「あ、40円使っちゃったごめん。」

翌日の今日は、やっとサタデー
午後、自転車の籠に3つの紙袋を入れ、市街地にこぎ出した。

最初はNさんのお店。
女の子二人がウマとびをしていた大きな背中の主に声をかけた。
「あの、S生命のゆきんこです。Nさん昨日、お誕生日でしたよね。」
「ええ?」
「1日遅れましたけど、お誕生日おめでとうございます。」
「忘れてた。誕生日だったんだ。」
「ええ?自分の誕生日忘れないで下さいよ。私より若いんだから。」
Nさんは照れくさそうに笑ってプレゼントを受け取った。

次は、河川敷沿いに聳え立つ「白い巨塔」
2006年1月にオープンした真新しい且つ最新の医療技術を備えた
13階建て高層建築のK医科大病院に足を踏み入れた。

夫に先立たれ、身寄りのないNさんが入院するというので、
ボランティアで面会に伺った。

その前に偵察に行ったのが子どもコーナー
待合室は黄色やピンクのカラフルなソファが備えられ、
可愛らしく明るい雰囲気の病棟だ。
総合病院でもゆきんこの勤務していた小児科とは雲泥の差。

「先日お伺いしたとき、こちらに入院されると仰っていたので、
来てしまいました。」
「まあ、私そんなこといったかしら!?よくここがわかったわね。」
Nさんは驚きと喜びの入り混じった表情で私を迎えてくださった。

「本当につまらないものですから、遠慮なく受け取ってください。
会社の小雑誌と、母の手作りの小物入れです。それから、先週知り合いのお医者さまにNさんのご病気のことを教えてもらい、その連載記事も
持ってきました。」
「ありがとう。検査の途中でも、自宅で療養が継続できるように勉強してる最中なのよ。退院したらまた家に寄ってね。」
「はい。」

3つ目の紙袋は、天満橋のあるギャラリーに届けた。
11月の中旬、母と訪れて以来、2度目訪問だった。
「こんにちは。こゆきさんは?」
オーナーの若い女性がにこやかに答えた。
「今トイレです。さっきまでお客さんの接待をしていらしたけど、
たった今、お帰りになったばかりです。ちょうどいいタイミングで
来られましたね。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「ゆきんこさん。来てくれたのね。」
奥から暖簾をくぐって松葉杖のこゆきさんが現れた。
「3月はどうもありがとう。無理してでもお邪魔してよかったわ。」
「こちらこそご足労をおかけしました。」
「いいのよ。いやなことだったら自分から身体動かして、都合つけて
わざわざ行かないもの。そうしたいと思えば誰が何と言ってもするんだから。お母さんは?」
「母は今日は用事で来られませんでした。こゆきさんによろしくと。」
「そう。それで、仕事はどう?」
「ぼちぼちですね。ノルマは厳しいですが、子どもたちだけでなく
幅広い方々にお会いできるし、何といっても職場の皆さんに歓迎されて
仲間関係に恵まれたことが一番ほっとしています。
営業成績はともかく、各々の営業所と比べてもチームワークの良さには
評判の高いのは確からしくて、満足しています。」
「それはよかったわね。今までの現場はどうかしていたのよ。
言ってみれば、あなた『出る杭は打たれる』って感じだったんでしょう?」
「保育はアルバイトという身分で、大人しくしていたつもりだったんですけどね。」
「それでもあなたの存在そのものが、現場の人々にとっておもしろくなかったんでしょう。虐めじゃないの。」
「私、そんなに詳しく話しましたっけ?」
「言わなくてもわかるの。私の妹なんだから。」
「すごいですね。今の職場は気に入っています。
でも、自分の予感ではそう長くはないと思っています。
本当は私、お店したいんです。こんなギャラリーみたいなの。
こゆきさんと同じ仕事したいんです。障碍があってもなくても
自分で稼いで自分の力で生きていける方法を芸術的なことでできたらと。」
「そんな話、初めて聞いたわ。」
「していませんでしたか?したつもりだったんですね。」
「すると、将来私と一緒に仕事をすることになるのかしら?
そういえば、ゆきんこさん絵を描くのも得意だったわね。
いつも手描きの年賀状くれるものね。」
「プロになるほどの腕前ではありませんけど、複数の占い師さんにも
芸術的なことをすればいいと言われたことがありました。
でも、母親の反対を押し切れないでしょう?こゆきさんみたいに勇気ないですから。」
「私だって、書家として活動し始めて、障害のある方々に指導させてもらうようになったのは、まだ5~6年なのよ。人生どうなるかわからないものよ。」
「今は、人間関係のよさを大切に、仕事と学業が両立できるようにしたいと思っています。さっきもお客さんのところへ顔を出したら
随分喜んでもらいました。まだ2~3回しかお会いしたこともないのに
娘のようだと気に入っていただいたみたいです。」
「あなたの誠実さがお相手に伝わるんでしょうね。」
「身の上話などもお聞きすると、説明していてもこんなに重い仕事はないと感じますね。単なるノルマを達成するだけにとどまらない奥の深さに、身震いして圧倒されます。」
「そうね。私も勧誘受けたことあったな。でも営利目的なことはどんなに強く誘われてもきっぱり断ったわ。」
「ところで、特に何のきっかけもなく、頭のなかからふっと死者の
お告げがあるというご経験ありますか?」
「どういうこと?」
「例えば、大学院の受験を決意したのも、私には祖母の背後霊があるような気がするんですよね。予備校へ向かう交差点の前で、ふっと祖母のことを思い出し、涙が出てきたことがありました。
そういえば、こゆきさんに出逢ったのも、祖母と最後に別れた直後でした。」
「それも初耳ね。私に会う前に御祖母さまに会いに行ったの?」
「そうです。父と別居した同じ年でした。内緒で一人旅で病床の祖母に
会いました。それが最後でした。
去年の春に父に話して二人で泣きました。すると父がまたGW明けに
1年前のそのときの話を思い出したのか、GW明けに電話をかけてきたんです。今度は伯母に会いたいと。」
「それは急いで、連れて行ってあげなくちゃ!手遅れにならないうちに。」
「でも、私にそんなこと!もう30年も伯母にあっていないんですよ。」
「だったら、私が電話してあげようか?それも何だかおかしいよね。
お父さんはあなたの御祖母さんの死に目に会えなかったんでしょう?
それに、伯母さんが亡くなってしまっていたらどうするの?」
「そうですね・・・私が連れて行かなくちゃならないですよね。
なんだか怖いです。誰か付き添ってくだされば・・・」

そこへちょうど別の客人が現れた。
こゆきさんが、わたしよりも旧い知人と思い出話を展開するうち、
心地よい睡魔に襲われ、私は10分くらい質のよい居眠りに陥った。
目を覚ますと、ギャラリーのガラスのショウウィンドウの外側が
薄暗くなりかけてきた。

「ごめんなさい。ちょっと疲れているみたいです。
そろそろおいとまします。」
「あ、さっきの話。自分で電話できる?」
「そうですね。次回のこゆきさんの展覧会までに、また近況を報告します。」
「それじゃあ、そのときにまた会えるわね。待ってるわ。」
「はい。ありがとうございました。」

お客さんには親切そうな微笑をたたえることを徐々に学んでいけるし、
断られることにも慣れるだろう。

でも、父の人生の末路に残された、虐待によって断ち切られた血のつながりという絆を元通りにするというどんな難解な統計学よりも困難な人生最大級の宿題の前に、たじろがないではいられなかった。

最後に、K・Dくんの代表作ををご紹介しよう
静かな雨に打たれながら
 静かな音を聞く
  静かにふりそそぐ中
   僕はまだ生きている

 水タマリが広がり
 いつの間にか消えていたような
 気がする水にうつったいろんな色が
 あざやいていた。皆がしずくをあびながら
 今日も一日が楽しかった。
         楽しい雨が今・・・」
 



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2006/05/20 23:00 | 鑑賞 | Comment (0) Trackback (0) | Top▲
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