日常の当たり前の何気ないことの中に 「あっ」というささやかな発見を一緒に 味わってくれませんか? でも、もしかすると、見過ごしている当たり前でない大発見かもしれません。
黒い石鹸 Dudu-Osum
2006年10月14日 (土) | 編集 |
今週もめまぐるしく1週間が終わりました。
2006年3月から生命保険募集人として自営業を始めて8ヶ月。
相変わらず、売り上げは芳しくなく、無駄な自転車巡回をしているうちに慢性的に膝頭が痛くなってきた今日この頃。

おまけに、1年半なんとかお金と時間と忍耐を維持してきた夜間教職員大学院との両立が、そろそろいきぐるしくなってきた。

こんなときはしばらく12時43分現在、オンエア中の「パッヘルベルのカノン」に耳を傾けて心のお洗濯。
音楽家バッハ一家が暮らした家、赤い屋根の中世ドイツの面影を残す町並みが映し出される。

現実には、大阪のゴミゴミした道路に一度放り出されると、いつどこで
事故に遭いはしないかとヒヤヒヤものである。

10月9日月曜日、午後3時過ぎ、自宅から国道1号線を挟んだ★病院を
訪れた。
「すみません、Kさんのお部屋は?」
「704号室です。奥のエレベーターからどうぞ。」
二人の初老のガードマンが、患者名簿をパラパラと捲って、不慣れそうに案内してくれた。

祝日の午後、ナースセンターのカウンターには誰もいないし、
奥のスタッフルームには2~3人の看護師たちが事務処理をしていた。
みんな学校を出て間もないというくらい若い。(若すぎるのがちょっと心配)

出勤したばかりの看護師が私にようやく気付いて
「どうしました?」
「お見舞いに・・・。Kさんのお部屋は?」
「ナースセンターの隣です。」

扉の前で、Kさんのお母さんとお会いした。
「はじめまして。★営業所のゆきんこです。」
「ありがとうございます。Kは今、トイレに行ってます。どうぞ中へ。」

Kさんを待つ間、お母さんとしばらく話した。
「ご家族のみなさま、ご心痛、いかばかりだったかとお察しします。」
「ありがとうございます。随分元気になりました。」
「★病院は近いし、支所長から近況を聞いて、お見舞いをどうしようかと悩んでいました。でも、今年のうちにお見舞いに伺わず、玄関で引き返してそのままお会いできなかった方がいらっしゃいました。
後悔したくなかったので、ご心情を弁えず、我侭なことにこうしてお邪魔してしまいました。
それに、私は以前、病棟で勤務していた経験がありまして、その時は
仕事だから病室も出入りさせてもらっていましたが、第3者としてお見舞いに伺うのも、改めて難しいことだと思いました。」
「そうですね・・・病気も様々ですから・・・」

Kさんがトイレから戻ってきた。
「Kさんと最後に擦れ違ったのは、私が遠距離のM地区から自転車で★営業所に戻ってきたときでした。Kさんは白い車で退勤して帰宅するときだったんです。もうすっかり暗くなっていて、先月は全然、売り上げなかったんですね。それで、Kさんが他の営業員に『ゆきんこちゃん、かわいそう』
って呟いていたそうです。」

それから3週間あまり、Kさんのデスクは空席のままだ。
彼女の病室からは、私の住む住宅地や、得意先が一望できた。

「Kさん、これ匂ってみて。」
「あ!せっけん?」
「そう。泡も黒いんだけど、肌がツルツルになるんだって。」

成績優秀だったKさんという稼ぎ手を失い、9月末で査定落ちしたHさんも
主力メンバーから失って、★営業所は今や大ピンチを迎えていた。

リーダーのS支所長は今年中に、営業員の頭数を揃えて、支部昇格しないと★営業所のメンバーは散り散りバラバラになってしまうのだ。

支社からハッパかけの上役がやってきて、留めの激励のことばを放った。
「★営業所はもう後がない。背水の陣です!この3ヶ月で1人15件のノルマを達成しなければなりません!そのためには今までの活動を見直して
何倍も活動してください!」

支所長が涙ぐんで懇願した。
「御願いします・・・今年中に支部昇格したいんです。
ゆきんこちゃん、全然営業力ないからでけへんって思ってるんやろう?
Bさんも、Nさんも、御願いします。このメンバーをなくしたくないんです。よろしく御願いします・・・」

そのことばに、泣かずにはいられなかった。
なんという無茶苦茶な課題を押し付けてくる会社なんだ!?
信じられない!最早、ドラえもん顔の支社長の笑顔のその深層が
鬼か邪ではあるまいかと背中がゾッとした。

事務員のFさんが抱きしめて言った。
「ゆきんこちゃん、御願いやからそんな風になかんといて・・・」

人間、自分で叶えられそうな目標や課題ならモチベーションはそこそこそれに向かって上昇するものだ。
しかし、月1件が御の字という新米営業員にベテランでも無理な5件とは
同時に鼻血まで噴出しそう・・・

週明け10日、疼く膝でJRの主要駅階段の昇降を繰り返し、夜の大学院に辿り着いた。
少し早めについたので、気を利かせるツモリで、5回の相談者が待機する
遊びコーナーの一角が散らかったままだったので、片付け始めた。
すると、そこにはゆきんこの大好きな青春期の漫画単行本が勢揃いして
いるではないか!
懐かしの「はいからさんが通る 第1巻!」

午後8時過ぎ、 再びヘロヘロになってお出ましになったI先生の「発達障害心理臨床特論」で始まった。
内容なんかは殆ど覚えていない(また資料はロッカーに置いてきました)

第2回のテーマは自閉症が発見されてから現在までの歴史について。

自閉症が1943年にカナー博士と翌年、アスペルガー博士によって発表されたが、当時は第2次世界大戦中でそれほど注目を浴びなかった。

自閉症は発達障害の範疇にあるが、発達障害そのもののカテゴライズは
それぞれの学会や、医学・教育学・行政によってその定義や診断基準はバラバラで統一も、標準化も曖昧である。

また、発表されている臨床論文においても議論は分かれていたり、
I先生にしてみれば、「そんな研究やる前から結果がわかってる当たり前のことやってる。」
具体的には、高機能自閉群とアスペルガー群のコミュニケーション力の比較において、アスペルガーが優位ってこと。

あるいは、従来定説になってきた親の育て方の問題や、自閉症は心因性の障害だから、受容的にかかわれば改善されるとの精神分析的な見解の臨床家が、日本においてはまだまだ幅を利かせている。特に四国の権威においてはいい加減に引退してほしいと口走っておられた。(おお!)

因みにこの四国の心理臨床家の権威というのは、I先生よりも遥かに
名立たる先生なのに、「そんなこと言っていいんですか!?」と
ヒヤヒヤしてしまった。

・・・だって、ゆきんこの住宅地にあるお化け屋敷みたいな旧い
自閉症の専門施設は、多分、その権威のお膝元にあるんじゃないかと
勘繰っている。そちらの学派から見れば、I先生などのABA行動主義者の
方が、「飴玉セラピー」などのバッシング対象として排斥してきた
日本の障碍児臨床の攻防が現在完了進行形で続いてきたという経緯があるのだ。

いずれにしても自閉症を含む発達障害は、まだ60年ちょっとと歴史も浅く、曖昧模糊とした未知の奥深い問題が、研究分野においても水掛け議論沸騰中であるが、そんなことよりも、どうせするなら、
個別にクライアントの諸特徴を的確に捉え、当事者が幸せになるための
効果的な方略や指南となる研究・実践に寄与すべきじゃないか

というメタ・メッセージも込めたI先生のちょっとした本音が出てくるとそれが笑いとリラックス効果をもたらし、緊張感をほぐしてくださるのだった。

自閉症の方々は、高機能においても(だからちっとも高機能じゃないというのが、専門家のコメント)複雑な表情やことばの裏、皮肉や冗談、比喩などの理解が難しく、模倣行動にも異常を認めることが多い。

「手の平を相手に向けて「バイバイ」と手を振るとき、自閉症の子どもや稀に健常児でも手のひらを自分に向けていることがありますが、
健常児は発達と共に消失するのに、自閉症児ではいつまでも直らないというのは、よくありますよね。それから、地元の方言が話せず、標準語で話す。方言を話す人もいますが、私が経験した珍しい子で、TVで怪談を見るのが好きで、ドライブ最中に助手席で耳元に、おどろおどろしい声をふきかけられたのには、驚きました。」

こういうネタが面白くて、笑いをこらえる。

「宝塚ホテルで13日に小児神経学会があります。運よく定員に達していなければ、申し込めるかもしれません。HPを検索してみてください。」

「残り3分で質問してくださればと思いますが、
恥ずかしい方は、お配りした白紙に記入してください。」

誰が恥ずかしいねん?
恥ずかしいと初めから思ってる人間が目立とう精神なくして教員を目指すわけないやん。
(シャイだから教員になれへんのでしょう!)

翌日、自宅付近を巡回営業して午後2時ごろ、昼食を済ませて小児神経学会のHPを検索してみた。
何とプレゼンターは、LD学会会長のT先生ではないか。
それに場所は宝塚ホテル、参加者はきっと精神科医か小児科医対象だ。
参加費は5000円。

またこういう庶民を苦しめるような法外なお値段を設定して敷居を高くしているのは、保険商品と殆ど同じ。

「掛け金、高すぎてよう払われへんねん。入りたくても入られへん。」
という若年、多数のお客さんのお嘆き同様に、自分も叫び声をあげてしまいたくなる。

PCをシャットアウトして、★営業所に戻る道すがら、自閉症の坊ちゃんと介助員の女性のペアに擦れ違った。
「Fくん、お帰り~。」
「・・・ゆ・き・ん・こ・・」
Fくんは生え変わった大きな前歯を覗かせてわたしの名を呟いた。

営業上のお悩みは、もうひとつある。
「真昼の水商売」をやってるつもりは毛頭ないのに、相変わらずのお客さん方のリアクションに慄かなければならない。
「あんたが、休日にデートしてくれたらええんやけどな。」
「ゴルフコンペよりも営業員付きの食事会を企画してや。」
「まだ、営業員やってんのか!さっさと保育士に戻れ!」

★営業所に戻ってタバコを吹かす先輩のUさんに愚痴る。
「ひとおっと(既婚男性)に口説かれたらどうやってかわせばいい?」
「・・・・」

木曜日の6時限目は「障碍児教育特論」爽やか田中星児系のT先生が
講師だ。
「知能検査には、田中ビネー、WISC、K-ABCと3つの代表作があります。他には絵画を描いてそこから知能を測るDAMというのがあります。
それでは、皆さん6歳の子どもの描画をちょっと体験してみてください。
人物画です。あんまり考え込まずにざっとかいてみて。」

大雑把に描いていると、T先生が近寄って覗き込んだ。
「先生は、幼稚園の先生?」(年齢不相応によく聞かれる質問)
「いえ、保育所でした。」
「じゃあ、お手の物だね。」
「頭と手は大きくて、下半身が上半身よりも小さい。手の指は5本あるけど、爪はない。足の指までは描いていない。こんな感じでしょうか?」
「うんうん。なるほど。」
「この頃は漫画のような絵を描く子が多いですね。」
「そうか。子どもの絵も変化してるんだね。」

講義が終わって、真後ろの席に座っていた女性教諭に質問してみた。
講義中、WISCやK-ABCの使用経験があり、諸特徴について的確に説明していたからだ。
「すみません、先生、知能検査のことでちょっと教えてもらえませんか。
恐らく現場でケースをお持ちになり、検査も実施されていると思います。
私、特別支援教育士の受講最中で、あとは実習を残すだけになったのですが、知能検査を貸し出してもらえるところをご存じないでしょうか?」
「私は盲学校に勤務しているので、ケースはないのです。
特別支援教育士の免許も私が取得したときには事前の練習はそんなにうるさくなかったのですが、あまりにもそういうルーズな受講生が増えたので厳しくなってしまったんですね。」
「先生も取得されたのですね。夜の大学院もあの資格取得も、膨大な
お金と時間とエネルギーがかかり、仕事との両立で正直参っています。
わたしの場合、教職現場にいないので、時間的にも経済的にも現職の方々よりも負担が大きく、3年以内に取得できなかったので、更新にも
2万円から3万円も掛かりました。8月もやっとK-ABCの講義のポイントが
取得できたのです。」
「私も、H先生の要請があり会場のお手伝いをしていました。」
「ああ!そういえば先生、あの時司会をしていらっしゃいましたね。」
「セミナーの会場手伝いも、資格取得後、更新ポイントに付加されてるんです。」
「今は会社員でケースもなければ、実践もしていないし、資格をとっても無駄なのかな、、、、でも、中途半端はいやだから最後まで取得だけはしたいと思っているんです。」
「そうですね~。知能検査自体が、限られた公共施設にしかなく、貸し出しは難しいでしょうね。あとは、こちらの教育臨床心理コースの学生さんに聞いてみるくらいしか・・・」
「去年は、同窓の通級指導教室の先生になんとか御願いしてようやく実習させてもらったのですが、何しろ遠方で・・・
あ、お時間とって聞いてくださりありがとうございました。」

金曜日、強行スケジュールに改変された初日、
朝9時に出発から担当地区のおきゃくさんのお宅を10件も巡回した。
殆ど留守だろうとタカを括っていたが、案外、多くのお客さんたちと
まずまずのコミュニケーションが取れた。

木曜日から引き続き、自転車同行で年上の後輩、Oさんと出かけた。
Oさんが、20年前に住んでいたという懐かしの隣のN市のある地区まで
自転車で1時間足らず。午前6時半から午後1時半まで自転車を乗り回していたから、さすがにお腹がペコペコになった。

Oさんが昔住んでいた家はそのままで、その玄関先では娘さんが
珍しいことに「プレーリードッグ」を飼っていた。
「何?この動物?見たことないな。檻を引っ掻いて外に出たがっているよ。」
家の主が出てきて教えてくれた。
「随分前に知り合いの紹介で飼ったんだけど、今は輸入が法律で禁止されてるんだ。」
「へえ、そんなに珍しいんだ!わざわざこの町まで自転車で来た甲斐があったな!」

3時に★営業所に戻ったら、日報書いて、来週の計画とその準備に追われる。個人営業だから誰に迷惑もかからない・・・と言い切りたいけど、
新人ばかりが寄せ集まりなので、勤務時間内の5時までに残務が収まりきるわけがない。

次なる訪問者に携帯をかけた。
「もしもし、Tちゃんごめん!1時間くらい遅れるよ。」
おまけにメールも入っていた。
「突然ですが、今日の午後6時半にゼミをします。」

無理だよ~~~・・・そんなにいっぺんに

「それじゃあ、See you next week!」
「ゆきんこさん!」
「なあに、Yちゃん?」
「今度はYとお姫様ごっこしよな。」
「やりたいね~!でも、Sさんに御願いしなくちゃ遊べないよ。じゃあね!」
バタバタと★営業所を出て、自宅に戻り、こんどはお土産を携えてTちゃん宅へ夜道に自転車を走らせた。

「ごめん~!仕事で遅くなっちゃった!」
待っていてくれたのは、Tちゃんの二人の子どもたちだ。
「おみやげもってきたよ。はい!」
「なあに、これ?」
「グアムの水族館のお店で飼ってきたんだ。」
「ふ~ん。Yのはクマノミと熱帯魚が入ってる。」
「Kくんのはエイとサメ」
「この袋には、水が入っているから、針でつきさしたりしないでね。」
「ママのおみやげは?」
「後でママに見せるときまで内緒だよ。」

Tちゃんがいつもより奮発して手作りの家庭料理でおもてなしをしてくれた。こういうのがシングルには、会社からの無味乾燥なご褒美よりも
ジ~ンと胸に沁みちゃったりする。

「こんどはドラえもんの世界一周旅行ゲームしようよ!」
赤ちゃんのときから、年に何回か遊んできた二人だけど、
ご近所の親友宅に度々出入りしていると、子どもたちの遊び方やことばのやりとりに成長を感じて、オバアサンチックに、嬉しかったりして。

子どもならではの無邪気さやあどけない笑い声がスカっとさわやかなのだ。
Tちゃん親子だけの通常時よりも、ゆきんこが加わると、どうやら
このごきょうだいはエキサイトして遊んでくれるようだった。

「今度は日本旅行ゲーム!」
「もう9時だから、帰らなくちゃ。楽しい時間ってすぐ経つのはどうしてだろうねぇ。」

エレベーターを降りて、Tちゃんと少し話した。
「仕事どう?忙しそうだね。」
「うん。学校と両立厳しいから、もう辞めたいんだけど、辞めさせてもらえないんだ。Tちゃんの言うこと聞いておけばよかったな・・・」
Tちゃんは苦笑いした。

真っ直ぐに自分の歩きたい道を歩けない。
生きていくためにも、自分のやりたいことをするためにもお金が要る。

ブラウン管の中で「日本の終身雇用や年功序列の時代はもう再来しない。」と経済・雇用問題の専門家が冷ややかにコメントするのを目にしながら、
それでも、学位論文のテーマだった「自分らしく生きるということの意味」を反芻せずにはいられない。

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2006/10/14 15:41 | 仲間 | Comment (1) Trackback (0) | Top▲
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2006/10/19(木) 16:17:06 | | #[ 編集]
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