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心の垢もお洗濯


10月第1週の土曜日。
9月の先週末とうって変わって爽やかな秋の快晴。
こういうお天気はだ~い好き!

しかし、大好きな暑くも寒くもない清清しい秋に
なぜかゆきんこは度々プー太郎をしていることが多い。(産休でも育休でも寿退職でもないプー太郎でいるのはいやだ!)
商いばかりで秋ないのも、いやなのだろうけど。。。
所詮、古今東西、人間はたとえ無駄に心理学を何年究めようとも、煩悩と生老病死四苦八苦から逃れることはできない。

昨日まで「せんせい」と呼称されていた私の肩書きは、昨日で終わってしまった。

今頃、憧れのI先生は東京で「あそびとコミュニケーション」というお題目で不特定多数の聴衆の前でご講演の最中だろう。

私が退職するという最終日の昨日10月5日、オフィスは腫物を抱えるように鎮まり、蟠っていた。
地位の高い管理職ほど恭しく挨拶を交わしてくださり、何故だか、気遣いや配慮に優れているものだと数々のホモ・サピエンスを観察させていただきながらシミジミと感じるものだ。
それは、母親が幼い子どもをどのように遇するかにも似て非なるものがあるかもしれない。

「もしよかったらどうぞ。」
とプレゼントを手渡してくれた明朗快活な若き教員は餞のことばをくれた。

「懇意にさせていただきたかったのですが、私とは話しづらかったのでしょうか?もしよければ、最後にお気持ちを聞かせてもらえませんか。」
「私も、修士論文を書き上げるのに寝食を削って大変な思いをしました。先生にとっても大切な論文を書き上げられる大切な時期を迎えられると思いますし、完成させる達成感もひとしおだと思います。いい論文を書き上げてください。」

結構神経質なので、どうして最終的に複数のスタッフからネグレクトされるに至ったのかを分析せずにはいられないが、
(慇懃な言動にカチンときて、でくの坊だったからに決まっているでしょ)
その方々に関しては、沈黙を守ったままに真相は闇の中。

私の場合、アスペルガーと勘違いされやすいのか、
長年行く先々の保育現場でなぜだかいじめまがいに遭遇してきただけに、多分、嫌われているんだろうな・・・という被害妄想は転職を繰り返す度に雪だるま式に膨れ上がっていた。

どうしてチビでどんくさいのんびりしたキャラクターのままでいたら、
嫌がられてしまうのだろう。
ちょっと間違っただけでどうしてイライラしたり、ムカついたりされて一方的にペコペコと謝っているのだろう。
「みんな違ってみんないい」という文言のままに、生きていてはいけないのだろう。

「お世話になりありがとうございました。
それでは、学校へ行かせていただきます。」

少しこげた手作りクッキーと引き換えに
花嫁のブーケでもなんでもない退職の花束を、入社1ヶ月というN氏から
受け取った。
専門学校のガラスの自動ドアを隔てて、教員の方々と3度目の敬礼を交わし、校舎に背を向けて最寄り駅に向かった。

専門学校では再々試験に若い学生たちが玄関ロビーで一喜一憂、はたまた自分のことなのに殆ど3無主義状態の10月第1週。
転じて、海の臨む繁華街の只中にある夜の社会人大学院は、後期授業が
始まり、平均年齢55歳という各種教職員が、慢性疲労を蓄積させつつも
賑やかに集まった。

昨晩から新開講される「家族関係学研究」は講義室6で行われるはずだった。
午後6時すぎに一番乗りで、それまで一度も入室したことがない部屋に入った。

何と、前期授業で使用した隣の講義室5は窓越しに海とネオンの観覧車が眩しいのに、この部屋はまるで倉庫みたいに狭いし、窓もない。

10分ほど経って、見慣れた年上後輩の院生がドアからひょっこり顔を出した。
「あれ?この部屋ですよね、家族関係学。」
「そう。ここに講義室あるなんて知らなかったでしょ。
Nさん。お帰りなさい。どうだったパラグアイ?」
「もう聞かないでよ。自分が順調だからって~」
「私はもう3年だし、あと3ヶ月で論文書かなくちゃ。後期はこれしか履修してないんだ。でも、せっかくだからもう少し履修しようかな。」
「確か、仕事もしてましたよね。大丈夫?」
「ううん。今日で仕事辞めちゃった。」
「ええ?どうして?」
「結局、職場に迷惑かけて両立できなくて。またプー太郎。」
「私たちの場合、太郎じゃなくてプーオバサンって言うのよ。」
「ああ、もうおばさんだものね。それにしても、我々のようにいい年こいて結婚もせず、定職にも就かずに、大学院なんか行ってどうするんだと、世間の風当たりはきついんだよね。社会人大学院といっても、両立は厳しいからどっちつかずになってどっちかを辞めるしかないもの。大学院を辞めている人も多いでしょう?」
「ええ、いるの?」
「結構いるよ。途中で姿を消しちゃう院生。管理職の先生だと責任重いから仕事優先になるでしょう?」
「ああ、園長とか主任ならどうしてもね。」
「私だって、いざ社会人大学院生になってみてこんなに人生が狂わされるなんて思ってもみなかった。今回仕事を辞めたのも、たったの5ヶ月しか続かなくていろんな方々の厚意を無にしたり、反感かったりしてしまったから、Nさんみたいに迷惑かけずにパートか何かで両立するのがいいかもね。」

7時を廻って講師はまだ現れず、変わりに事務局のY氏がのっそりと現れた。
「どうも申し訳ありません。休講通知が出されていたことに今確認して
気がつきました。」

こんな時、仕事ができない私は、向学心だけは丸出しにして厚かましく
他の講義室に梯子する。
演習室10のドアを開けた。
「こんばんは。あの、ご迷惑でなければ見学してもよろしいでしょうか。」
「見学ですか?まあ、どうぞ。」
「ありがとうございます。お邪魔します。」
マンツーマンで演習が始まっていたところ、幼年コース2年のN先生の斜交いに座らせてもらった。

「今日は鉛筆2本を使いますね。はじめは私の拍手をきいてそれを紙に
鉛筆で書いて表現しましょう。」
先生が全くのアト・ランダムに手拍子を打った。
弾くように、鉛筆の芯を紙にタン・タン・タンと載せた。

次に音楽に合わせて、鉛筆を思いのままに白い紙の上に走らせると、
それだけで随分開放的な気持ちになった。

一番面白かったのは、自分の手の皺を紙面をみないで描いてみるという
ワーク。
普段は見つめることもない自分の手のひらの一つ一つの皺を丹念に
白い紙に書いてみた。
「一番気に入った作品を選んで、感想を述べてみて下さい。」
N氏は左右にもった鉛筆で伴奏と旋律とを分けて自由に自分らしく描けたという作品を選んだ。

私は迷わず手の皺の作品を選び、「あやしい」と表現した。
「中学時代は手のデッサンをしたことがありましたが、紙面をみないで
皺をなぞるように楽しく描けました。もうひとりの自分を表現したみたいです。」

いい年こいて社会人大学院生のプーおばさんのゆきんこは、
世間から見れば何を考えているのかわからない「あやしい」奴。
しかし、私から見れば、思考力や感受性を蝕まれている方々の方が
余程あやしい・・・

人間はみんなあやしいから、疑心暗鬼になり、ますます信頼することが難しくなっているのかもしれない。

本当はもっと素直に、青空の下で生き生きと生きていたいだけなのに
どうしてPさんは、午前10時に布団に入って眠りにつくのだろう。
空はこんなに青くて、いいお天気なのに。

Pさんのようにくたくたになったシーツを干した。
正午になるまでに乾いた。
昨日まで職場で着ていたシャツも下着も一緒に洗った。
あやしげな心の垢まですっきり落ちて、青空の下、風に揺れている。
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