初出勤は田んぼの中

弥生の月も今日で終わり。
花冷えというのだろうか。
桜は5部咲きといったところで、今日の気温は、中国江南地方に比べるとひんやりしている。
自転車で朝7時40分に自宅を出ると、ハンドルを握る手や首筋に冷たい風がス~ッと入ってくる。
まだまだ手袋やマフラーは手放せない。

8時前に最寄り駅には到着したが、バスを1台見送ってしまった。
待つこと13分。
それから淀川を渡って斜め向こうの町に所在する新しい職場へと向かう新しい通勤路をバスは走る。

この道程は、実に久しぶり。(何年前かは言わんとこ・・・)
大学へ4年間通った道程だから、慣れていることは慣れているが、
通勤と通学とでは緊迫感が違う。

I駅に着くと、次は別のバスに乗り換えるのだが、バス停まで数百メートルも離れている。
小走りであと50メートルというところで、再びバスを目の前で見送ってしまった。
ここで、さらに10分待ちぼうけ。

そこからM3丁目行きのバスでさらに10分。
職場から最寄のバス停に到着した。
しかし、今度は信号という関所で足止めをくらった。

やばい。出勤時刻まであと15分しかない。
最寄のバス亭といっても、職場まで1kmも離れている。
土手に沿って、新幹線を望むのどかな田んぼのど真ん中に私を迎えてくれる新しい職場が見えてきた。

自宅から通勤時間は約1時間50分もかかってしまった。
地理的には、我が家の所在するところから職場まで10km以内のはずだけど、
正直言って、同じ時間をかけるならもっと遠距離通勤も可能である。
例えば、シャトルバスで関空や神戸まで行けるのだ。

ややこしい表現になってしまったが、早い話が、通勤手段は自動車がなかったらとても不便なロケーションに位置しているために、自転車とバス2台、徒歩15分という行程で、果たして通勤できるだろうか・・・という一抹の不安を覚えた。

それでも、最寄のバス停から小走りで15分。
久しぶりに走ると、年齢相応に息切れしている。
ギリギリセーフで新しい職場に辿り着いた。

私にとって新しいのは職場だけではない。
真新しい建物、新しい物品、新しいスタッフ、新しい仲間
何もかもが真新しい春だ!

「おはようございます。すみません。ギリギリになってしまって・・・」
「間に合ってるから大丈夫よ。ロッカーに案内するわね。」

新しい上司も、安心できる感じで、この業界では経験豊富な女性であるのが嬉しい。
更衣室には、Pさんの姓があった。
ゆきんこの場合、今回の就職は格別、苗字まで変わって真新しかった。
新しいスタッフに呼びかけられると、何でPさんの名前を私に呼んでるんだろう?
と思ってしまう。

・・・というのも、私は一つ屋根の下でPさんと暮らしていた時も、
半年以上は苗字で呼び続けていたのだ。
ふ~む。。。一体、いつ頃違和感がなくなるのかな?

まずは、入職に必要な書類を提出した。
ここでも、取得した資格・免許の類に、つい10日前に授与された最新の修了証明書までは全て旧姓だけど、銀行の通帳や身分証明書は随時、名義変更する必要があるのだ。

「施設長、すみません。まだ結婚間もないので、諸々の名義変更がこれからでして。
平日の3時まででないと銀行は終わってしまいますので、今日にでも手続きのために早退させていただけませんか?」
「いいですよ。今日は、開所前のセキュリティシステムの説明を聞いてもらうだけだから。」
「初日から勝手言いますが、宜しく御願いします。」

新しいスタッフも、初対面同士とは思えない気さくなメンバーでひとまず安心。
「何もかも新しい職場は、やりやすいよ~」
と同じ部所になった年配の男性スタッフが真新しい施設内を一緒に一部屋一部屋巡回して話しかけてくださった。
「ここは授産施設だけど、我々の担当は、更正施設とは違ってどこまで生活面の支援をするのかの
線引きが大切だと思うよ。」
「そうですね。学校じゃないし、生活は家庭での課題ですから、保護者のご要望も何もかもにお応えするのではなく、利用者の方には働く意欲も持ってもらうような支援を工夫する必要があるでしょうね。」
「ゆきんこさんは、どこから来てるの?」
「M町です。1号線沿いの。どこですか?」
「同じ市内のNだよ。」
「どうやって通勤しますか?」
「僕はバイク。」
「時間は?」
「30分かな。渋滞によってはもう少しかかるけど。」
「そうですか~。私、バスを乗り継いで1時間50分。」
「そりゃあ結構かかるなあ。僕より近いのに。」

階下に降りて、自立部門の担当スタッフにお伺いを立てた。
「え~と、私でできることは何でも仰ってください。」
授産施設ワーク☆の花形部門は、クリーニング。
保育業界から金融業界→専門学校講師を経て
実は、「はじめまして」の障害者福祉業界に仲間入りしたゆきんこ。

当然、本格的なクリーニング業務も初体験!
「それじゃあ、まずバスタオルを籠に入れてください。」
「まだ湿っぽいものもありますが・・・」
「いいですよ。まとめて、乾燥機に入れますから。」

親分のお達し通りにいくつかの工程に分かれた一連のクリーニング作業に参加した。
これも、本格的ながら、ABAで紐解けば、結構楽しめた。
タオルの乾燥作業
①タオルをハンガー吊りからはずす
②乾燥機に入れる
③スイッチを押す
④タイマーが切れたら、乾燥機からタオルを出して籠に入れる。
⑤タオルを2つ折りにたたむ

タオルたたみの作業
①タオルのロゴが表になるように4つ折りにたたむ。
②重ねて並べる。
③一段30枚で4段分、120枚をひとつの籠に入れる。
この作業はひらすら続けると、1時間はあっという間だった。

ワイシャツの作業
①アイロンをかける
②ハンガーに吊るす
③ハンガーからはずす
④ワイシャツのボタンをとめる
⑤ワイシャツをたたむ
⑥襟にボール紙の芯を入れる
⑦ワイシャツを袋に入れる
⑧プレス機で袋をとじる

なるほど~~~
いかにも自閉の皆さん方にはぴったりフィット感のある業務だろう。
2週間後には、この3月に地域の養護学校高等部を卒業した青年期の利用者の仲間たちにお会いして、一緒に働くことになる。
学校と違って、働くことの喜びを純粋に彼らと味わい直すことができそうな気がした。

何より、この部門を取り仕切る男性スタッフは、私よりもずっと気さくで爽やかな印象だ。
「うちのおばあちゃんがやばいんですよね~・・・それで、急遽、田舎に帰ってきました。一命はとりとめたんですけどね。」
「というと、まさか危篤に?」
「そうなんです。もう90代後半だから、今度いつ知らせがくるかわからない状況で・・・
ここが開所したのはいいけど、納期に迫られると心配だなあ」
「・・・」
ここで、なんと応答すべきかことばが出てこなかった。
クリーニングの行程には、もうひとつ「適当にいつも通りたたんでいいです」と指示を受けた洗濯物が
2山あった。
付近の老人ホームから委託されたお年寄りのものだ。
下着にもタオルにも全てその方の名前が記入されていた。
何となく、母の衣類もいずれはこんなことしなければならない日が来るんだろうか・・・
と顔も知らない他人の私が、洗濯物をたたんでいるのは妙な気がした。

汚れた洗濯物を洗ったり、畳んだりするのは子どもを預かる保育所でも家族の仕事だ。
だから、まだ他人であったPさんの下着を初めて洗った時にはことばに表せない妙な感覚があった。
「この人は、突然私の人生に現れて、なんで私に洗濯物を洗わせているのだろう?」

男性諸氏はそんなことに疑問さえ発しない。
クリーニングだって、そもそもは家庭内のアンペイドワークなのだ。
専業主婦はその任務を、パートナーに間接的に報酬を得て扶養される義務を負う。
Pさんのアンペイドワークに、誰も報酬を支払わない。
それが一体いつまで続くのかわからない。


ぼやくはずではなかったのだけど、、、
1時前まで作業を手伝い、スタッフみんなで昼食タイムを取ってから今日のところはこれで勤務を終わらせていただき、銀行へ出かけた。
復路はバスがタイミングよくやってきたけど、それでも1時間15分はかかった。
銀行へ着いたのは2時30分。
「すみません、名義変更したいのですが。」
「戸籍謄本か運転免許書を提示してください。」

ゲッ?
どっちもないよ。

市役所へ行ってみてまた、はたとした。
謄本は・・・Pさんと婚姻届を出した隣の市だ!
銀行は3時で閉まるから今日中の名義変更はもう間に合わない。

しかし、隣町なら謄本の要請は間に合いそう。
一路、往復の電車賃節約と運動を兼ねて自転車で4駅先へと向かった。
30分以内に市役所に到着し、業務取り扱い時間内には取り寄せができたが、
余分に3部請求したら、なんと1300円もかかった。高すぎる!

今度は元来た線路沿いを引き返し、故郷の警察へ
まるで、生保レディにカンバックしたみたいだ。
「あの、結婚したので免許書の書き換えを御願いします。」
すると、強面の婦警さんが窓口で言い放った。
「住民票かあなたの住所を証明するものを提示してください。」
「謄本ならあります。」
「謄本ではダメです。あなた宛の郵便物でもいいですけど。」
「ありません。運転免許証はいつも身分証明に携帯していますが、ここではダメですね・・・」
「取り扱い業務時間は何時までですか?」
「5時までです。」

トホホ・・・
今日中には、全く手続きは間に合わず、結局上司に事後報告で誤るしかなかった。

婿養子以外の男性諸氏にはわかるまい。
たかが名義変更。されど名義変更。
結婚も離婚も女性だけがこんな面倒くさいことで官公庁や金融機関を右往左往させられる。
それを性差別だと訴えると、日本ではこれまた差別を受ける。

それはさておき、苗字は気に入らなかったマイナー旧姓よりもPさんのファミリーネームは
気に入っている。
だから、今までPさんに呼びかけていた名前を新しい職場で新しいスタッフに呼びかけられることを
本当は素直に喜んでいる。

3月3日から再来した市役所から取り寄せた謄本を改めてまじまじと見ると、「夫・妻」と記載されていた。
昨晩のPさんの返信メールには「我が妻へ」とあったな。

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