名刺配りは一期一会

午後4時半
池添先生の講演が終わるや否や、私は躊躇う気持ちを押して名刺を一枚取り出した。

くるりと会場を振り返ると、見覚えのある女性の姿が目に留まった。
「こんにちは。S保育所の先生ですね?」
「あ〜!?」
「ゆきんこです。アルバイトでS保育所に勤務させてもらっていました。」
「久しぶりですね。お元気ですか?」
「はい。先生、今もS保育所に?」
名前は度忘れしてしまった保育士さんは、4年前当時、隣のクラスの担任だった。

「(ゆきんこ)先生はどうしていますか?」
「障害者授産施設に就職しました。それから実は、こんなことをしています。」
私は、池添先生渡したかったはずの名刺を差し出した。
「すごい〜!活躍しているんですね!」
「苗字も変わって結婚しました。」
「羨ましい〜」
「ところで、あの当時、先生が担当していたクラスにかんもくのお子さんいらっしゃいましたね。」
「ああ、Aちゃんのことかな?」
「先生、もし関心があれば、HPをご覧になってください。PCはどうですか?」
「あ〜、ごめんなさい。私、PCは苦手で殆ど使わないの。」

入り口で保育士さんと別れて、池添先生の姿を探したが見つからなかった。


次に向かったところは、同じフロア内の福祉図書コーナー
過去10年は失業の度に、出没していた癒し空間だったけど、
この4月から受付のスタッフが入れ替わったらしい。
お馴染みだった視覚障害の女性と聴覚障害の女性も異動になったようだ。

そこで、借りた本は、
『発達と障害を考える本 ふしぎだね!?言語障害のおともだち』
牧野泰美 監修 阿部厚人 編 ミネルヴァ書房(2007)

受付で貸し出しカード見つからず、もたついてしまった。
新顔の柔和な女性スタッフが、やさしい口調で言ってくれた。
「新しいのを再発行しましょうか?」
「そうですね。名前も変わりましたので・・・」
「住所・氏名を記載したものを見せてもらえますか?」
「じゃあ、名刺を・・・」
私は女性スタッフと車椅子の男性スタッフに渡した。
「かんもくって知ってますか?」
「いいえ。」
「では、折角ですからこの機会にもらってください。障害のある方々かかわる人にも、殆ど知られていません。HPもご覧になってみてください。」

私は借りた本の監修者と編者のプロフィールに目を留めた。
「牧野先生は特殊教育学会に所属しているんだ・・・」

午後5時30分。
H駅に向かい、タイムリーに到着した特急に乗り込んだ。
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