パパとTくん(第18回)

今日は、午後6時半から8時前まで家庭訪問療育をしてきた。
笑顔でヤル気満々のTくんとパパの顔がリフレインする。
がんばったな。喜んでもらえてよかったなと実感するとき、
この仕事は、誰が何と言おうと、わたしの天職かもしれないと
自惚れてしまうこともある。

しかし、謙虚さを見失って悦に入ったときほど、
家康の格言通りに「勝って兜の緒を締めよ」と振り返りたい。

それもこれも、色んな人々との出会いの連なりの中で
起こってきた行動の連鎖の賜物なのだから。

朝9時半にわたしは、自宅から徒歩5分のとある場所へ
買い物袋を提げて出かけた。既に、20人ほどの地域住民が
並んでいた。
ハッピを着た係りの男性が声をかける。
「4列に並んでください。ご持参のカードと引換券を交換します。」
昨日、図書館で借りた岩波新書の「怒りの方法」(辛 淑玉著)を
読みつつ、待つこと15分から20分。
辛さんの辛らつな文体にわたしは、何故かしら頭がスカッとしてくる。
きっと、彼女の背負ってきた境遇がわたしとオーバーラップし、
今まで素直に言えなかった代弁をこの1冊の本の中に凝縮されているから
なのだろう。


順番を待って入ることを許されたその建物の中は、
半分食糧倉庫といった感じ。
「お待たせしました。本日、ここN町に通信販売のメリーマート
オープン記念特別販売をさせていただきます。」

今日から3日間、先着200名に指定の数品を午前10時と午後2時の
タイムサービス特別価格で販売のちらしが、一昨日投函されていた。
気になるお値段は、なんと100円!

自称、恥ずかしがりなどと言いつつ、いそいそとでかける私に
母が呟く。
「あんたもようやるねぇ。」
「こういうのが、大学院行ってるんだから、一般庶民感覚と
これからの時代、両刀使いでいいんじゃないかなぁ?」

午後からは、訪問先のTくん(6:2)の教材とカリキュラムを作成した。
昨夜10時にTくんのご両親に依頼され、Tくんは3日前から発熱が
続いていて、保育所も休んでいたのだが、わたしの来訪を
心待ちにしているので、是非来て欲しいと懇願されたのだった。

5月頃にも、同じようなことがあり、わたしはその時かなり
冷淡な態度で断っていたのを、きっとご両親は懸念されたのだろう。
5月当時、わたしは保育所で9時から5時までの保育をしていた上に、
週末の金曜日の夕食時に慌てて駆けつけていたため、現在の失業中
のように、心と時間のゆとりがなかった。
また、Tくんともう1件の家庭訪問に、週3日の夜の大学院で
帰宅は午後11時半。
そして、担当のクラスは荒れに荒れまくっていた。

わたしはとうとう6月にはバーンアウトした。

8月にTくんのお母さんのご依頼で、再開して月2回、
1回につき1時間のペースで、今回で18回目になった。
2月から始めたときに、ご両親もわたしもこんなにも彼が
好転するとは、思ってもみなかった。

「雨が降ってご不便をかけますが、どうか来てください。」
「はい。じゃあ、今から出かけていきますね。」
午後6時過ぎに、確認の電話が再び入り、わたしはピンクのレインジャケットに身を包み、雨の中自転車を走らせてTくんの町へ向かった。

「あ、パパさん。今日はお休みだったんですか?」
「いや、出張でね。直帰だったんです。」
「そうですか。お疲れ様でした。Tくん、こんばんは。」
「T、ちゃんと先生にご挨拶して。」
「Tくん、お熱あるって?大丈夫?
 今日はパパと一緒にしようか。」

Tくん、今日は発熱にもかかわらず、過去最高、絶好調だった!!
どんな風に絶好調だったかって?
(ああ、このブログあんまり人の目に留まってないのにね)
初めから終わりまで一度も離席をしなかった。

はじめに、くもんの線引きプリントを8枚ものの3分でしてしまう。
「ええ、もう全部できたの?すごい!」
次に「11ぴきのねこ」
「Tくん、とらねこたいしょうになって、おさかなをわけてください。」
大きさはバラバラだけど、Tくんは自分で魚を描き、
適当に切った破片を、パパが11匹のねこの上に並べて確認した。
「惜しかった。1枚余ったけど、上手に分けたね。」

読解のポイントは「どうしましたか」の質問に答えること。
Tくん「え~とね~・・・」と考えていた。
わたしは質問を変えた。
「じゃあ、絵を見てお話を作ってみて。」
パパが言った。
「隣にいなくても、ちゃんと自分でできるじゃないか。」
「そうですね。でもパパが横にいて見ていてくれるから、
Tくん、お熱あるのに頑張ってるんだと思います。」
「お前、こんなに細かい紙くずまで拾って、手先が器用なんだな。」
「ホント。このお星様のトークンシールも、自分で切って剥して
上手に貼っているね。」
さすがに、40分ほど経過してTくんは発熱もあって疲労と集中力が
ピークに達した。
「疲れたでしょう。おしまい。」

夕食が出来上がったお母さんに見てもらった。
「なるほど、黄色い紙の裏に両面テープを貼ってシールにしてるんですね。」
「はい。星型に沿って、Tくんに一枚ずつはさみで切って
貼ってもらうようにしてみました。」

毎回、上手くいってるわけではない。
だからこそ、上手くいった時には記録しておくことが大切で、
たとえ上手くいかなくても、「失敗は成功の母」
失敗を成功へ転じるためにも記録が必要。
帰宅すると、ビデオも時計もなくていい加減なのだが、
(そこが、正真正銘のプロと言い切れないところ)
あとは10年余りの職人感みたいなので、時系列にザーッと記録する。

第3者のわたしが、超禁断プライベートゾーンのご家庭に
介入するなんて、どこまで守秘義務を守るのか、
どこまで信頼関係を掘り下げて、「家族もどき」になれるのか。
幸い、T家の皆さんは、Tくんがお腹にいるときからの
長い付き合いを許してくださってきた。

「ねえTくん。この上手にできたやつ、せんせいのせんせいに
みてもらってもいいかな?」
「すごいね。先生の先生っておじいちゃんみたい。」

一足早く、勉強を済ませた兄のF君が階下へ降りてきた。
「ゆ~きやこんこ・・・」とご機嫌で歌いだす。
Fくんが襖を開けてこちらを覗き見たので、
わたしのテーマソングを歌ってくれたFくんにお返しした。
「♪ゆ~きやこんこ、あられやこんこ」
Fくん、にっこり。

18回目の終了シールを貼って、Tくんは寛ぎモードに入った。
「パパさん、20回目は記念パーティーにゲームをしませんか?」
「ゆきんこさんも一緒に?」
「もちろん。じゃあ、考えておいてくださいね。」

全ては必殺仕掛け人の、I先生の技をバックボーンに
いかに自分とTくんとのオリジナリティに持っていけるかの
MY ABA WAY なのだ。

さて、明日はK先生の講演会に出かけよう!




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コメント

お邪魔します。
PDDと一緒*の管理人asa12-ta29です。
ゆきんこさんの思いがとても丁寧に書かれてるブログですね。
私も明日は西山記念館で行われる竹田 契一先生の講演会に行ってきます。今からとっても楽しみです。
お互い有意義な1日になるといいですね。
またこちらのブログに遊びに来させて下さいね。よろしくおねがいします。

PDDと一緒さん。ようこそおいでくださいました。早速褒めて頂き(強化子)嬉しいです。お互いに励ましあっていけるような
ブログを紡いでいけるといいですね。
よろしくお願いします。
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